【映画評】ノマドランド
ノマドランド
2021年のアカデミー賞作品賞の最有力候補と言われている「ノマドランド」を観た。
昨年にアカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト」が「動」なら「ノマドランド」は「静」と言える。
良くも悪くも波がなく淡々と話が進んでいくのだが、現代社会に様々な疑問を投げかける作品になっている。
鑑賞後に調べてみたところ、原作はノンフィクションとなっている。
原作は全米から始まった大きな反響が、世界にも広がっていったジェシカ・ブルーダーのノンフィクション。果たして、ファーンが見つけた〈私の生きる道〉〈生きる場所〉とは──?
誰もが初めて経験する新しい時代を生き抜く希望を、広大なアメリカ西部の美しくも厳しい自然の中で発見するロードムービー。
参照元 https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland/about.html
一般論で考えれば、10代や20代前半の若者には退屈な作品だと思われる。
30代になってようやく物語の深淵さを垣間見ることができるが、それでもまだ作品のうわっつらを撫でた程度の理解だろう。
40代を過ぎ50代に入り、労働からの解放が目前に見えてくるころ、それと同時に人生の終わりを強く意識し始める時、そんな世代の人々の心に深く刺さる話なんだと思う。
日本に比べて自由で、アメリカンドリームという名にふさわしい夢の世界が広がっているイメージのアメリカだが、それはあくまで陽の光があたっている一部に過ぎないのだろう。
この作品は普段日があたらない影の部分を映し出しているのではないだろうか。
そして、その陰の部分の闇は日本のそれよりも深く濃いのだと思う。
自己責任といえば聞こえはいいが、それは多くの人を社会から切り捨てているということであり、その先の1つが「ノマドランド」なのだろう。
ノマド生活を肯定的に捉える様は、本当に心からそう思っているというよりは、そうでもしないと心がもたないのだろうと感じられる場面もあったし、だけど何かにすがったり何かに頼ったりすることができない自尊心も確かにあるように思えた。
お金ですべてが解決できる人もいれば、たとえお金があったとしてもノマド生活を続ける人、続けざるをえない人もいるのだろう。
ただ1つ言えるのは、ここで描かれるノマド生活は金持ちの娯楽や道楽なんかではなく、生きるか死ぬか狭間の選択の結果ということだ。
この映画を観て何も感じないのはただただ毎日を幸せに暮らせているからか、せわしない毎日に心が麻痺してしまっているかのどちらかだと思うが、後者であるならば、その先には「ノマドランド」が待ち受けているかもしれないことはよくよく理解しておく必要があるではないだろうか。