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日本の生産性が低いのは中小企業が多いから
「日本企業の勝算/デービッド・アトキンソン」
精神論で語られがちな日本の生産性の低さ。
例えば、付き合い残業が多いだとか、無駄話が多いからだとか、男尊女卑の文化が強いからだとか。
そういった思い込みに待ったをかけて、データに基づいた分析を行った結果見えてきた「日本には中小企業があまりに多い」という構造的な問題を提唱したのが、今回読んだこちらの本。
「日本企業の勝算/デービッド・アトキンソン」
デービッド・アトキンソン氏の著書は以前読んだこの「新・観光立国論」以来2冊目。
その時感じたロジカルな印象そのままに、今、そしてこれからの日本の問題(主に圧倒的な労働人口の減少や社会保障制度に関する)に対する本質的な理解と抜本的な対応策が述べられていると感じました。
大企業が少なく中小企業が多い
本著で再三語られるのは、会社の規模の重要性です。
改めて考えると至極当然のことですが、事業規模が大きく従業員数が多いほど効率的に事業活動を行うことが可能であり、生産性は高くなる傾向がありますが、逆に事業規模が小さく従業員数が少なければ事業活動は非効率的になり、生産性は低くなる傾向があります。
日本では、業種別の平均社員数と生産性の間には、0.84という強い相関関係がある(P.177)とあります。
また生産性の高い国では、相対的に企業の数が少なくその分1社が抱える従業員数は多い傾向にあります。
さらに言えば、国ごとに中小企業の定義は異なり、中小企業に対する優遇政策も当然異なりますが、日本のように中小企業を小さく定義し、その中小企業への優遇策を手厚くするほど生産性は低くなるというデータがあります。
女性の社会進出が進まない理由は男尊女卑だからなのか?
日本は女性の社会進出が進んでおらず、ジェンダー・ギャップ指数は121位(2019年)と下位に沈んでいます。
この要因として、男尊女卑の価値観の影響が語られがちです(それ自体否定はできませんが)が、生産性の低さの結果であると著者は言います。
また有給休暇の取得率が低いのも同様の要因であると言います。
これら相関関係は明白で、規模が小さくなるほど従業員1人ひとりへの依存度が高くなり、代わりが利かなくなるためです。
中小企業に従事する人口の割合が高い日本では、そういったわけで女性の社会進出が遅れ、有給休暇の取得率が低位のままであると考えられます。
中小企業を成長させる
どんな大企業も中小企業であったステージを通過しているので、一概に中小企業が悪いわけではありません。
しかしながら、中小企業で停滞することなく中堅企業、大企業への成長を促進することがこれからの日本には必要になる、というのが筆者の主張です。
日本は様々な面で、中小企業が優遇されています(P.175)。
・法人税率の軽減
・欠損金の繰越控除
・欠損金の繰戻還付
・交際費課税の特例
・投資促進税制
・少額減価償却資産の特例
・固定資産税の特例措置
・研究開発費税制
・消費税の特例
こういった施策により日本では中小企業が増加するに至った、つまり、国の政策によってもたらされたものであると言えます。
であるなら、国の政策によって中堅企業、大企業を増やすことも可能だと考えられます。
これはなにも無理を言っているのではなく、そもそも近年大幅に中小企業の数が減っており、このトレンドに沿って戦略的に中小企業を減らし生産性を高めようという提言です。
中小企業が小さぎる原因として以下の3つが挙げられています(P.336)が、こういった状況に対し具体的な施策が本書では詳細に掲載されています。
・中小企業の定義が小さい
・税制などの中小企業に対する優遇策が手厚い
・最低賃金が低い
最後に
本書を読むまで日本の生産性が低いのは、付き合い残業が多いだとか、無駄話が多いからだとか、男尊女卑の文化が強いからという精神論のせいであるという先入観を私自身抱いていましたが、随分印象がかわったと思います。
日本の生産性に関する問題については構造的な問題があり、ましてや個人の努力でどうにかなる問題ではないということを改めて認識することができました。
日本が変わっていけるのかどうかについては、まだまだ不透明感が強いですが、本書のような分析を是非参考にしてもらい建設的な対策を進めてもらいたいと思います。
そして日本が本当に変化の軌道に乗ったとき、自分自身がその流れに逆行することのないよう、社会の流れを注視していきたいと思います。